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インドの食器

独自の浄・不浄観を持つインドでは、その観念と密接に結びつく日常の食事、及びそれに連なる食器の使用に関しても独自の制約や作法が存在する。
他人の唾液に対する極度の不浄観から、特に結婚式といった儀礼などの場に於いて使い回し出来るような食器が使われる事はまず無く、現在でも沙羅双樹(サーラ)の葉を細い枝で結びつないだ葉皿が使用される。当然、この葉皿は使い捨てである。
これに盛られたカレー料理を手(正確には指)を使って食すが、手を使うのも他人の唾液に対する不浄観からである。

 

また日常生活の場においても、食事はバナナの葉の上に盛られるのがかつて一般的であlり、またそのカレーの煮炊きにはテラコッタ製の土器が使用されていた。今でも駅や露天にあるチャイ屋が用いているのは上薬を塗らない素焼きのコップであるが、これら土器のコップもまた他人の唾液との接触を忌避する目的のために使い捨てであり、駅や露天のチャイ屋の脇には使用済みの割られたチャイのコップが散乱している。

これら土器を作っている職人カーストをクンバカール(陶工)といい、村落だけでなく、デリーなどの大都市の中にも存在し、日々食器や鉢など生産している。例えば断水が日常的なインドでは現在でも水がめに水を溜めて飲用に備えているが、この水がめの生産も彼らの手になるものである。


一方、インドでは土器や葉皿のみならず、真鍮や鉄製の食器も用いられる。
この真鍮の食器を作る職人はカンサカールと呼ばれる。このカンサカールは食器のみを作るのではなく、広く真鍮工芸一般に携わる職人である。
また鉄製の食器はカルマカール(鉄鍛冶)というジャーティ(カースト)に属している。カルマカールもまた、ナベや皿といった食器だけでなく、広く農具・工具といった日用道具全般の製造を生業としている。

 

土器や葉皿は一度唾液で不浄の状態となると簡単には洗浄し得ないが、逆に言えば真鍮などの金属製の食器は浄化が容易だと言える。このため現在では、葉皿や土器は上述の宗教儀礼などといった、とりわけ浄・不浄観念を重んじる場に限られて使用されており、日常的には金属製の食器が使用されている。インドで金属食器が一般化したもう一つの背景には西方ムスリム文化の影響もある。

 

現在ではこれら金属製の食器製造は大半が劣化しにくく軽量のステンレスなどの素材が主流で、大手資本の手にゆだねられ、大量生産されている。
大量生産された食器は主にインドのユダヤ人とも称されるマールワーリー商人らによって集積され、そこから各什器小売業者に卸売されていくという流通経路をとっている。
カンサカールやカルマカールが個人で一つ一つ請け負って製造したり、テントを持って村々やバザールを回ったりする時代は既に終わったかに見えるが、今でも家庭の台所用具の修繕などを請け負うなど、時代の流れに流されつつも細々とであるが決して途絶えてはいない。
(04年11月5日)
 

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